サティシュ・クマール ≫ Resurgence

2013年 9・10月号 No.280

世界最高の(とぼくが信じている)エコロジー誌『リサージェンス』の最新刊の冒頭、おなじみの編集主幹サティシュ・クマールによる序言「welcome」を訳してみました。本誌購読についてのお問い合わせは左メニューないの「Resurgenceの購読申込み」へ。

辻信一

サティシュ・クマール ”WELCOME”
GMか、それともGMのない世界か? 遺伝子組み換えは反進化である

最近のスピーチでイギリスの環境大臣オーウェン・パターソン氏は、農民たちに遺伝子組み換え(GM)種子を使った農業を推奨しました。我らが環境大臣は、モンサント社とともに、世界中が遺伝子組み換え食品を育てることこそが現代的であり、進歩や科学の名に値するというのです。
彼らの立場を支えてきたのは、GM作物を育てることでしか激増する人口を養うことはできないという議論です。しかしこれは、本当のことではありません。実際には、世界に食料の不足などありはしないのです。

政府による統計を見ただけでも、それがわかります。世界の食料の約40%は、人の口に入ることなく、無駄に捨てられているのです。しかも残りの60%がすべて人の口に入っているわけでもありません。バイオ燃料となって、車やトラックやトラクターを走らせる穀物の割合が増え続けています。同様に、膨大な量の穀物が家畜の飼料として使われています。

ですから、遺伝子組み換えを推進する側の議論を受け入れる前に、私たちは無駄に捨てられている4割の食料について、どうするつもりかと政府に問いただすべきなのです。そして、貴重な穀物を車や動物たちの口に入れる前に、人々の口に入れることをまず心に決めるべきではないでしょうか。
また私は、GM作物に依存することによって引き起こされる生物多様性の減少についても憂慮しています。すでに生態系はハイブリッド(F1)種子の影響によって、深刻な打撃を受けています。例えば、かつては何百何千という品種があったリンゴが、ゴールデンデリシャスといった少数の品種の単一栽培による大量生産の大流行の影で消えていきました。“ゴールデンデリシャス”、つまり“金色で美味な”といった形容詞にふさわしい数々の地リンゴたちが、です。同じことが他の果物、野菜、花、ハーブ、穀物、豆類にも起こりました。

ハイブリッド種子ですでにこうなのですから、もし我々がGM種子を受け入れてしまったらどうなるでしょう?私は、このことに深い恐れを覚えます。それは、今よりはるかに数少ない不健康な作物が、機械やロボットなどによって単一栽培され、大量生産される未来です。現に、こうした農業の姿が科学的農業の名のもとにまかり通っているのです。

こうした“洗練”され、機械化された食料生産によって、すでに私たちは多くの知識と野生の味わいというものを失ってきたのです。最近のニューヨーク・タイムズ紙によれば、タンポポはF1のホウレンソウの7倍もの栄養価があるということです。しかし、どれだけの人がまだ、こうした野生の食べ物を楽しむ術を知っているでしょうか。

売られている果物や野菜のほとんどは、ビニールハウスの中で化学肥料によって育てられ、プラスチックで包装されています。GM作物へと進む人類の選択が、この状況をさらに悪化させると私は心配しているのです。

今でも、世界中の何百万という農民や園芸家たちが、自給的な暮らしを楽しんでいます。それは、彼らが毎年種を自家採種することによって可能になっているのです。こうした自立的な食料生産者たちが、モンサントをはじめとしたたった4つか5つかの多国籍企業が販売する種に頼らなければならなくなり、自分の暮らしを大会社に左右されることになればどうでしょう。それは農民たちの自由と自立の終焉を意味するでしょう。それは単に農民の問題ではありません。農民の自立を犠牲として、未来を都会の立派な研究室に座って、株主たちの巨大な儲けのために働いている技術エリートたちの手に委ねることは、世界を不幸に陥れる道なのです。

多様性と分散こそが、進化の重要な要素です。GM食品は逆に、均一性と独占・集中への道です。ですから私にとって、いわゆる科学的食品革命とは、進化ではなく、むしろ反進化なのです。

私たちは農民に対して、神聖な仕事に携わるものとしての敬意を払うべきです。DIRT(土)はDIRTY(不潔)なものではありません。土とともに働くこと自体が尊敬に値するのです。その農民たちに、銀行家たちが稼いでいるお金の百分の一しか支払われていないでいいわけがありません。むしろ逆であるべきです。

農とは、それがなければ人間が生きていけない食べものをつくる仕事です。それが、一体何でそんなに低く評価され、一方、コンピューター画面で数字をいじくりまわすことが、なんでそんなに高く評価されるのでしょう。

農民たちは何千年という経験に基づいて、多くの知恵を蓄えてきました。彼らは大自然とともに働き、そこから多くを学んできたのです。

というわけで、パターソンさん、どうか農民たちを放っておいてあげてください。世界中に食料を供給するのは偉大なる自然であり、土であり、農民たちです。モンサントでも、遺伝子組み換え技術でも、技術エリートたちでもありません。