ゆっくり小学校 ≫ 婦人之友誌連載

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小学校が小さいとは限りません。大人たちは「少子化」について大騒ぎしながら、未だにクラスを縮小することすらできないんですね。一方、ぼくが憧れるような、全校で数名とか数十名とかの田舎の学校は、小さすぎるという理由で、より大きな学校に統合してしまったり。

「ゆっくり小学校」の“小学校”は“小さい学校”。この“小さい(スモール)”という言葉が秘めた大きな意味について考えてみましょう。

「小さい学校(スモール・スクール)」という名の中学校がイギリス南西部の村にあります。前回ご紹介したサティシュ・クマールが、30年前につくった学校です。

自分の子どもたちのための学校を探していたサティシュは、しかしバスで1時間もかかる生徒数二千人の州立中学に通わせたくなかった。しかも、子どもを空っぽの容器と見なして知識を詰めこんだり、「より多くお金を儲け、消費する人」をつくろうとするような学校には。

地域の人々に声をかけ、教育について話し合った結果、学校をつくろう、ということになった。間もなく、生徒9人の文字通り小さな学校が始まりました。

昨年、念願かなってぼくはそのスモール・スクールを訪ねることができました。サティシュの家から歩いてたったの5分!

それぞれの生徒に教員たちが十分心配りできるようにと、全校生徒は40人までと決まっています。開校当時と同様、保護者をはじめとする村人たちが自主的に運営。カリキュラムの半分は算数、理科、語学など通常の科目ですが、残りの半分は衣食住に関わる「生きる技術」の習得と、「自然からの学び」に充てられています。

サティシュが、誇らしげに「一番大切な教室」と呼ぶのは、菜園とキッチン。そこで生徒と先生と保護者たちは、昼食の食材を育て、調理します。

さて、サティシュにはE=4Hという等式があります。教育(E)、とは、ヘッド(頭)・ハート(心)・ハンズ(手)・ホーム(家庭)という4つのHからなっている。そのどれもが欠けていない“丸ごとの(ホリスティック)”教育を目指そうというのです。

「ヒューマン・スケール教育」という言い方もあります。科学技術や経済や政治がますます巨大化し、非人間化する現代社会に、人間の身の丈に合ったヒューマンな教育を取り戻そうというわけです。

「人間は小さい。だから小さいことは素晴らしい」。この有名な言葉を残したのは、サティシュの親友、E.F. シューマッハーです。

2014年 婦人之友 3月号掲載